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最高裁判所第三小法廷 昭和25年(れ)433号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人三名弁護人澁谷又二の上告趣旨は、末尾に添えた別紙記載の通りであり、これに対する当裁判所の判断は次の如くである。

第一点及び第二点について。

所論のように朝鮮向け船舶が当時絶対に存在しなかったということは、原審の認定しない事実であって、原判決の摘示事実とその挙げている証拠によれば、かかる船舶が存在し、被告人等もこれが来航を予期して密輸出物資を多量に買入れ、これと朝鮮在住者宛の手紙等を取り纒めて梱包し、貨物自動車二台に積載し、真夜中ひそかに海岸近くまで運搬したのであるが、当時海上においても陸上においても密輸出の取締が特に厳重であり、ために船舶も海岸に近寄ることができない情況にあり、従って被告人等も遂に船積みすることができなかったことが認められる。被告人等の密輸出遂行行為が既に上記の程度に進捗している以上は、判示関税法第七六条第一項にいわゆる「輸出ヲ図リタル者」に該ること勿論であるばかりでなく、また、貿易等臨時措置令第四条第一項にいわゆる「輸出しようとした者」にも該るものと云はなければならない。従つて、被告人等の所爲に前記法条を適用処断した原判決には、所論のような違法は存しない。

第三点について。

所論は原判決の量刑の不当を非難するもので上告適法の理由とならない。

第四点について。

原判示第二の(二)事実は、原判決の挙げる証拠、特に被告人呉忠元の原審公判廷における供述と原審における証人井上喜三郎に対する証人訊問調書中の同人の供述記載から、これを認めることができるのであって、被告人呉忠元において、当時原判示のように萩野益雄の保管していた貨物を、夜間殊更に番人の居ない時を見はからい、錠を破壊して持ち去る以上、同被告人に所論のように犯意がないということはできない。従って論旨は理由がない。

よって旧刑訴第四四六條に従い、主文の通り判決する。

以上は当小法廷裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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